• せきしろ

ゾンビから逃れてヴィレッジヴァンガードに立て籠った場合(抜粋)

【ヴィレッジヴァンガードフリーペーパー寄稿原稿】(2014年)



 あなたはゾンビから無事逃げ切り、ここヴィレッジヴァンガードにたどり着いたことだろう。数々の恐怖と困難に勇気を持って立ち向かい、かつ乗り越えてきたことをまずは称えたい。

 続いてあなたラッキーだと言いたい。なぜならここはヴィレッジヴァンガードだからだ。


 1978年に公開されたジョージ・A・ロメロ監督の映画『ゾンビ』。生存者がショッピングモールに逃げ込み籠城するシーンがあるが、あれを観た者は必ず一度は自分もショッピングモールに立て篭もることを想像する。

それなのにヴィレッジヴァンガードに来てしまい、「ああ、なぜここに来てしまったんだ。ショッピングモールの方が良かったのに」と嘆いている人もいるに違いない。「あっちの方が品揃えが良いのに」と考えてしまっても仕方ない。

 しかし悲観は無用だ。ここはショッピングモールに劣らないほど、いやむしろそれ以上、ゾンビから身を守るための、時にはゾンビと戦うための道具が十分に揃っているからだ。

 もう一度言おう。あなたはラッキーだ。




 さあ、まずは出入口を封鎖してもらいたい。無論、外部からゾンビが侵入するのを防ぐためだ。ドアを閉め、施錠し、シャッターがあるならそれを下ろす。また、CDやiPhoneケースがズラリを並んでいる棚、ガチャガチャ機械などを出入り口付近に移動し、さらに補強する。ロディやスポンジボブのぬいぐるみなども隙間を塞ぐのに役立つだろう。

 また、外に光が漏れぬよう、アンディウォーホルのポスターや、『時計仕掛けのオレンジ』のポスターなどを貼ることを忘れてはいけない。「いや、俺は『トレインスポッティング』のポスターが良い」「私はシド・ヴィシャスのポスター以外は貼りたくない」というのならそれでも良い。ここではポスターの種類は問わない。友達や異性が訪れる時の自分の部屋ではないからだ。ただ、この先もしも誰かここに逃げ込んで来た時に、「へー、こういうポスター貼ってあるんだあ」と言われる可能性はゼロではないので、気になる人はその点を考慮して貼るべきだ。




 出入口を封鎖したならば、立て籠る準備をしよう。ヴィレッジヴァンガードにはゾンビ対策に有効なもので溢れている。ジャンルごとにいくつかの例を挙げるので、参考にしてもらいたい。

 そして生き延びて欲しい。

①食料

 籠城するための必需品といえばまずは食料だが、その点は心配しなくて良い。ヴィレッジヴァンガードには様々な食品が揃っている。外国産のグミ、うまい棒の詰め合わせ、大きな袋のキャベツ太郎、ペッツ。10円玉を入れてハンドルを回せば丸いガムを食べることも可能だ。お菓子だけではなく少々高級な缶詰だってある。

 飲み物も容易に手に入る。ドクターペッパー、美味しくないと言われているコーラをはじめとして、あまり馴染みのない飲み物が揃っている。同じ飲み物を飲み続けて飽きてしまった場合は、メガネになっているおもしろいストローも店内にあるので、それを使って変化をつければ良い。

②武器

 ヴィレッジヴァンガードには銃器がない。しかし武器として利用できるものはある。例えばマジックハンド。ゾンビに直接触れてしまうとそれだけ噛まれる可能性が上がる。そこでマジックハンドで距離をとりながら、隙をみつけて殴打すればよい。

 強力な武器として忘れていけないのはハンガーだ。洋服を掛ける時に使用するあのハンガーだ。これが武器になるとは信じられない人も多いだろうが、映画『刑事物語』の中ですでに実証済みである。主演の武田鉄矢がハンガーを持ち、まるでヌンチャクのように扱い敵を倒している。なお、『刑事物語5』ではハンガーを3つつなぎ合わせて三節棍のように使用している。

 また一か八か魔法のスティックを手にしてみるのも良いだろう。

③防具

 ヴィレッジヴァンガードは衣類が揃っている。ということは防具が充実しているともいえる。これはゾンビの攻撃から身を守る上で大きな利点である。

 靴下を履き、下着を身に付け、その上にパーティグッズの全身タイツを着る。さらにズボンを履き、好きなバンドTシャツを着よう。なるべく肌を出さないことを心掛け、手袋も忘れてはいけない。店内を探せば大仏や馬の被りものがあるはずなので、それで顔を覆うと良い。目を守るためのサングラスも揃っているので、バースデーケーキの形をしたもの、かけるとタレ目になるものなどお好みで選択してもらいたい。

お腹に分厚い本を入れ、最後に弾帯のようにお好きな『おもしろタスキ』をかければ完璧だ。

④娯楽

 ヴィレッジヴァンガードは娯楽で溢れている。それはショッピングモールを越えていて、あなたは決して退屈することはない。

 本が読みたければ文豪の小説からおもしろい猫の写真を集めた本まで様々な種類のものがある。昔読んだ漫画をもう一度全巻読むことも可能だ。懐かしい絵本を手に取り、懐古にふけるのも悪くはない。CDもあるからBGMに困ることはない。これを機に、建築のことを勉強したり、手芸をしてみたりと新たな趣味を見つけることもできる。

 ただし、どんなに楽しいもので溢れていても、睡眠だけは忘れてはいけない。絵本『ねないこだれだ』を読んですぐに寝よう

⑤逃走

 いつの日か、ここから逃げ出さなければいけない時がくるかもしれない。その日に備えて予め準備をしておくべきだ。好きなリュックを選び、必要なものを詰め込んでおこう。何もかも詰め込むと逃げる際に邪魔になるから、「この10万円貯まる貯金箱はいるだろうか?」「小便小僧の形をしたユニークな灰皿は絶対に必要だ」などと本当に必要なものかどうかをしっかりと選別しなければいけない。

 ヴィレッジヴァンガードは自転車も扱っている店もあるから、それを使わない手はない。ただ自転車は店舗の外にあることが多いため、取りに行くのが困難な場合は、店内にあるスケボーを使うって逃げるという選択肢もある。

 本売り場に地図があるので、それは必ず持って行くこと。

165回の閲覧

最新記事

すべて表示

ルノアール2016(『2016年のリラックス。』掲載)

ルノアールに初めて入ったのは、高校三年の修学旅行の時だった。観光バスで都内を走り回っている際、ルノアールと書かれた看板を何度も目にし、あれは何だと気になった。すると、宿泊先のすぐ近くにルノアールはあり、近づいてみると喫茶店だとわかり、興味本位で入ってみたのだ。 私の町にある喫茶店のテーブルは、ほぼゲーム筐体なのに、ルノアールにはそんなものはなく、観光地によくある大きくて古いホテルのロビーのような高

映画『そらのレストラン』パンフレット用

私が住んでいたのは映画の舞台からは遠い、北海道の東部に位置する道東と呼ばれる地域で、冬になればもちろん雪は降り、さらにことごとく凍ってしまう場所だった。私が中学生の頃はヤンキー文化が全盛であり、不良と呼ばれる男子はいつもボンタンと呼ばれる太い学生ズボンのポケットに手を入れて歩いていたのだが、冬でもそのスタイルは変わらず、凍った路面で滑って転んでもポケットから手を出さなかった伝説の人がいたことを覚え

  • Twitter
  • ブログ
  • Instagram